電子本
1.はじめに
電子出版に関して、少しだけ私見を綴っておこうと思う。
とても関心がある、けど何だかよく解らず、空の上でドタバタ劇を演じてるようにしか見えないので、口を閉ざしている人が多いのではないだろうか?本というのは、紙というハードウェアと、内容というソフトウェアの複合的な製品になる。昨今の電子出版に関する報道では、ハードウェアに焦点が当たり、コンテンツの部分が少し討論されていない気がしている。このため、私自身が本好きな者として、消費者視点から電子出版について私見をまとめてみる。
2.自分たちにとって本というのは何か?
まず私見を述べる前に、前提となる書籍についてまとめておく。
今回の私見の中で対象となる書籍は、専門書を除く文芸品など一般書籍とする。専門書を除く理由は以下の2点である。
- 専門書は、専門家が対象となる書籍であり、一般市場と性質が異なる。
- 専門書は、コンテンツ(内容)が重要であり、電子出版などハードウェアや仕組みに影響を受け難い。
このため、これから綴られることは、一般の本屋に置かれる文芸品や漫画、雑誌、その他の書籍を対象とする。
3.電子ブックとは何か?
次に、ハードウェアに当たる電子ブックを考えてみたい。国産品の電子ブックは数年前から販売されていたのが、昨今注目されているのは、AmazonのKindleとAppleのiPadが大きな影響を与えていることは周知の事実である。Kindleの様な専用ハードウェアとiPadの様な汎用ハードウェアを比較すべきではないのだが、どうにもiPadやiPhoneは影響力が大きいため、ここでは同質のものとして扱う。ただし、個人的な感情からiPadやiPhoneを贔屓目に見ていることは勘弁して欲しい。*1
4.基本的なスタンス(脱線)
これは、先輩が技術士の面接試験での話(らしい)。
面接官:「OSには、Windowsだけでなく、MacOSやLinuxがありますが、どう考えられますか?」
先 輩:「目的に対して最適なOSを選択します。目的実現のための一つの選択肢ではないでしょうか?」
面接官:「いやいや、オープン性の…(云々)…」
先 輩:「どうでもいいでしょう。目的達成に最善のOSを選択すべきでしょう…。それ以上でもそれ以下でもないのではないですか?(怒)」
この逸話にもあるように、私(消費者)にとってインフラは選択肢でしかない*2。電子出版業界にしても同じことで、目的に応じて電子媒体なのか紙なのか、あくまでも選択肢にしか過ぎないと考えられる。そこに利権や広告業界(マスメディア)が絡んでくるから複雑になってくるのではないだろうか?基本的な観点はシンプルなもので、以下の内容でしか無いと私は考える。
- コンテンツを電子化することで、消費者は安価にコンテンツを入手できる
- コンテンツにアクセスする方法が如何に楽になるか
- 紙は腐敗するので、半永久的にコンテンツを残すためには電子化が最適である
これらの観点を次項で考えてみたい。
5.様々な観点に対する私見
- コンテンツを電子化することで、消費者は安価にコンテンツを入手できる
- 安価になることは予想できるが、今の値段ではメリットが少ない。インターネットのビューアという視点に置き換えると、PCのブラウザに対する代替機手段として携帯電話(もしくはネット端末の類)が考えられる。これらが、PCと比較して8割程度の値段であれば、やはりPCを購入するだろう。おそらく半額か、それ以下の価格でないと難しいと考える。価格に変わるデジタルコンテンツのメリットがあれば補えるが、現在のところは見当たらない。
- コンテンツにアクセスする方法が如何に楽になるか
- 本は紙であり、人は自由に扱うことが可能となっている。破く、折る、書き込む、曲げる…等、その他諸々の使い方が存在する。対して電子ブックの利点は、コンテンツを自在に取得することに着目されており、コンテンツを楽しむことに対しては注力されていないように感じている。このため、電子書籍が現在の紙に勝てるとは考えられない。
- 紙は腐敗するので、半永久的にコンテンツを残すためには電子化が最適である
- 現在においては電子化がベストであると考えられる。本当は安定した状態の物質に記録するのがベストではあるが、安価且つ再利用性を考えると電子化するのが望ましい。これについての議論に反論は見当たらない。
これらの点を考えると、電子書籍が一般市場に流通するためには改善すべき事項が多く残っていることが予想される。スマートフォンを代表するように、既存の状態を変えていくには大きなウネリが必要である。iPhone等のスマートフォンが普及したのは、インターネット上のコンテンツであるtwitter等のSNSである。同様に紙を媒体にしたコンテンツ配信が普及するためには、供給する価格だけではなく、もう少し新たなサービスなり仕組みなりが必要となりそうである。*3
6.まとめ〜私にとっての電子ブック〜
正直なところ一長一短である。専門書については何冊も手軽に持ち運べることを考慮すると電子ブックは魅力的ではあるが、これはPCやスマートフォンで充分に用が足りている。逆に、文芸品を考えると、通勤時間帯に片手で読み、カバンに放り込むなど乱雑な扱いに耐えられる紙媒体が現在のところは魅力的である。特に、日本市場では通勤途中に文芸品に触れる機会が多いことが考えられるため、煩雑に扱えられるハードウェアが必要になると思われる。現在におけるKindleやiPad等の電子媒体は、その点が考慮されておらず、自在にコンテンツを入手できる点にのみ注目されている。この辺りが、現状の混乱を招いており、消費者にとっては天の上で論議されているように感じてしまう原因なのかもしれない。
電子書籍が普及するためには、もう少し消費者目線での議論が必要であり、消費者が本を読むことに対して何を求めているのかを純粋に考える必要がある。少なくとも私にとっての書籍は娯楽であるため、紙や電子媒体などの方法論には興味がない。私が必要とする電子書籍は、凸版印刷が進めているTFT ON FLEXに近いもので、少なくともKindleやiPad等の現行電子ブックではない*4。
私見ではあるが、まだ過渡期であると考えられるため、これからの3年間でインフラが大きく変化することを期待している。
*1:会社の後輩に見せてもらった時は微妙と思ったものの、某友達が僕の自宅に持ち込んだ時に心変わりが起きてしまった。文字と動画とマルチ反応の融合はiPadやiPhoneならではのものだと感じている。まるで韓国のドラマのように、自分たちの操作によって様々な反応をしてくれたら本というのは、とても面白いものになりそうだ。
*2:システムアーキテクトという言葉が一人歩きしているのは、目的を達成するためのインフラ構築の部分が複雑化しており、その専門家が必要となっている背景もある